1章:告白

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通り過ぎる景色に、下校中の中高生が目に入る。うらやましくて泣きそうになる。10代。なんでもできるって信じてた頃。実際、なんでもできたのだ。今はもう、なにもできる気がしない。全部手に入ると思っていたのに、ほしかったものは一つも手に入らなかった。 おまけに大嫌いな島にみじめに無残にしがみついて生きている。 「みっともないよなあ」 自分の独り言に、本当に涙が出てきた。 俺は片手で目をこする。 もう疲れているのだ、俺は。疲れ果てている。それも自分のせいで。 人生を楽しむ余裕なんて、今の俺にはない。自分のせいで。 広い一本道、アクセルを踏み込んだ。 ――まだ、就職先決まらないの?あのね、義男おじさん覚えてる?あの人が定年するから、後釜にあんたをって推してあげようかって言ってくれてるのよ。どう? 一昨年、母親に言われたことを思い出す。 ――あんたが就職できないのは、本当は別にやりたいことがあるからでしょう?いいのよ。人生は楽しめばいいんだから。島に帰っておいで。帰ってきて、働きながら、小説描けばいいじゃない。 度重なるお祈りメールに気が滅入っていた俺は、ろくろく考えずにその提案に乗ったのだ。結果?帰ってきて一年目は必死で書いていた小説も、去年から一文も書いていない。仕事から帰ったら酒飲んで寝るし、休みの日は昼まで寝て、それから家事だ。
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