第1章

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 古びた駅で、私は電車を待っていた。  もうすっかり夜も更けて、私以外に電車を待つ者もない。チカチカと明滅する常夜灯に、虫がぶつかる音がやけに響く。  私はベンチに座り、妻に帰宅が遅くなる旨のメールを送ってから、ふと顔を上げた。  いつの間にか、私の隣に少女が座っていた。  歳は六、七歳くらいだろうか。白いブラウスに紺色のジャンパースカートを着て、クリーム色の毛糸の帽子をかぶっている。可愛らしい女の子だ。  少女は私を見上げると、にっこり笑った。私もつられて笑い返す。  しかし、こんな時間に小さな女の子がひとりでいるなんて、どうしたことだろう。  私は少女に話しかけた。 「こんばんは」  少女は一層嬉しげに笑う。 「こんばんは」 「お嬢ちゃんひとり? お母さんかお父さんは?」 「あたしひとりよ。ずっとひとりでいるの」 「……ここで待ってるように、言われたのかな?」  少女は首を横に振った。 「パパが、あたしのこといらないって」 「え?」 「パパがね、あたしのこといらないって言ったの。だからあたしここにいるの」  少女は投げ出した足を、ぶらぶら揺らした。  こんな小さな子をひとりで置き去りにするなんて、親のすることではない。  児童虐待。そんな言葉が私の頭をよぎる。  私は携帯を取り出し、まずは警察に通報すべく、ボタンを押そうとした。 「あれ、圏外……?」  さっきまで電波が入っていたのに、何故か今は圏外の文字が表示されていた。 「なにしてるの?」 「あ、いや……。お嬢ちゃん、おうちの電話番号とか、住所とかわかるかな?」 「わからない」 「そうか……」  訊いてどうするんだ。虐待されているかもしれない家に送り届ける気か?  そもそも携帯が使えなければ意味がない。もう一度携帯を見たが、やはり圏外のままだった。  首をひねる私を、少女はにこにこしながら見ていた。 「お嬢ちゃんは、いつからここにいるの?」 「ずっと」 「……お父さんがここで待ってるようにって言ったのかい?」 「違うわ。でも、いらないんだって」 「いらないってどういうこと?」  少女はベンチから、ぴょんと飛び下りた。 「パパは、あたしのこといらなかったのよ。だからママのこともいらなくなったの」 「そんな……そんなことないよ。お嬢ちゃんみたいな、可愛い子……」
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