第1章

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 そのとき、電車がホームに入ってきた。  私は渾身の力で少女を振り払うと、急いで電車に乗り込んだ。少女は、パパ、待ってよパパぁ、と泣いていたが、その声も、電車のドアに遮断された。  電車がゆっくりと走り出したところで、私は大きなため息を吐いた。  ゴトンゴトンという音を聴きながら、私は座席に座り込んだ。  なんだったんだあの子は。  冷静になってみれば、あの子が美咲の娘ではないかと考えたことが、バカバカしい妄想に思えてきた。  少女の言葉は支離滅裂だった。きっと親に放置されていて、それで誰かに構ってほしくて、ああやって訳のわからないことを言っているのだ。  やはり警察に通報するべきだったか。いや、下手に関わらないほうがいい。  もう考えるのは止そう。早く帰ろう。  私は携帯を開いた。  携帯は圏外のままだった。  電車の中には誰もいない。  車窓からは、深い闇が広がるばかりで、なにも見えなかった。  その闇がふいに恐ろしくなって、私は目を逸らした。  目を閉じると、少女の声が頭の中で響く。  ――ずっとここにいるの。  ――暗くて冷たい。  ――パパはあたしといくのよ。  ――みんなあたしと電車に乗ってくれないの。  私はもう一度窓の外に目をやった。やはり闇ばかりが、黒々と広がっている。  民家の明かりも、街灯も、なにも見えない。 「……なんで」  心臓の音がうるさい。  ゴトンゴトンという音に混じって、パタパタと小さな足音がする。幼い笑い声。電車には誰もいなかった。首が動かない。体が冷えていく。心臓が痛い。  誰かが私の手を握った。  ぞっとするほど冷たい手だった。
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