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夕方、おじいちゃんの家に帰宅すると、おじいちゃんは家に居なかった。
お父さんに訊いたけど、もうじき夜になるからすぐ戻るよ、って応えただけだった。
でも暗くなっても、おじいちゃんは帰ってこなくて、お父さんが電話帳の片っ端から
電話を掛けて、おじいちゃんの行方を探した。
心配だった、おじいちゃんに会えなくなっちゃうような気がしたから、でも僕はいつの間にか眠りに落ちていた。
おじいちゃんが見つかったのは次の日の朝だった。
山奥の崖の下で遺体で見つかった。
足を滑らせて10メートルも滑落したと聞いた。
朝起きて、家に残った母親が、躊躇いながらもその話をしてくれた時、僕はぞっとした、おじいちゃんが死んでしまった、不幸な事故だった、でも、もしかしたらおじいちゃんが山に行った理由は、あの蝶々を採りに行ったんじゃないかと思い、僕は怖くなった、おじいちゃんが死んだのは僕のせいだと。
その日の夜、おじいちゃんが自分の家に帰ってきた、ただ、動くとも喋るとも何にもせずに。
そして、親戚やおじいちゃんのお友達が沢山集まり、お通夜が行われた。
僕は、自責の念で、どうしても、おじいちゃんの顔を見ることが出来なかった。
そんな僕を見て、お父さんが、小さな箱を差し出した、マッチ箱より少し大きい古い紙の箱だった、僕はそれを手に取り、フタを開けて中を見た。
「オオルリシジミ?」
驚いた、箱の中には5本のムシピンで押された綺麗な蝶々があった、それは小さな標本箱だった。
お父さんは静かに頷き、こう言った。
「父さんが、雅人と同じくらい小さい時に、おじいちゃんから貰った物だよ、雅人にこれをあげよう、おじいちゃんの形見にしなさい」
知ってか知らずか、お父さんのくれたオオルリシジミの標本箱を持ったら、僕は自然と涙が出てきて止まらなくなってしまった。
それから、おじいちゃんの顔をちゃんと見て、僕は謝った。
最後の挨拶まで、僕は泣き通していた。
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