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「変わって無いなあ」
空の高さも、山の広さも、古びた家屋は古びたまま、部屋の匂いは、まだおじいちゃんが住んでいるかのように。
(お帰り、マー君、良く来たな)
なんて、玄関の奥から声がしてきても、驚かないで、普通に返事してしまうかもしれないくらい。
ここはまるで、あの日から時間が止まったままのようだった。
でも流石に永い事人が住んでいなかったせいで家の中は埃だらけ、荷物を運び込む前の掃除で日が暮れそうな時間になった。
「雅人、荷物の整理は明日にして、飯にしようや」
父さんのその言葉に頷く。
母さんは既に夕飯を作っていた、久々のこの家での夕飯におじいちゃんも喜んでいる事だろう。
父親にビールを進められ、コップを差し出した。
実はこうして家族が揃うのも久し振りだった、僕はそこそこ立派な企業に就職できて、結婚こそまだだが、とっくに家を出て、自立していた。
ビールに喉を鳴らした後、父さんが徐に話し始めた。
「実はな、ここの集落を潰してダムができるかもしれないんだと」
「え、本当に?、それで父さん、実家に戻ったって事」
「ああ、まぁそうだな」
自分的には少しショックな話しだけど、色々な憶測が脳裏に浮かんで、瞬時に口に出た。
「つまり、この家と土地を守るとか、自然破壊反対とか、ダム建設反対運動とかする気?」
まさか、立ち退き料のつり上げ?それは流石に無いか。
「違う、違う、別に国のやる事に逆らうつもりは無いが、やっぱり寂しくてな、ここは生まれ育った家だし、お前だって、じいちゃんとの思い出が少なからずあるだろ」
確かに、とても大事な、そして悲しい思い出があるよ、父さんも一緒なのだろう、二人は黙ってしまった。
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