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どうせなら、花でも手向けたいと思ったが、お墓参りはちゃんとしたし、わざわざ生きている花を手折る事など、おじいちゃんは好かない、僕は手を合わせて目を閉じた。
突然、後ろの方でガサガサと音がして、ビックリして振り返る。
「え、こ、子供」
男の子だった、小学生位の、一瞬目と目が合って、藪の中に消えた。
こんな山奥で子供に合うとは珍しい、集落の子だろうか、それにしても。
僕はその男の子の、妙な格好が気になった、丸刈り坊主に、きっちりと首もとまで閉めた半袖白シャツに半ズボン、上履きのような薄っぺらいシューズを履いていたようにも見えた、明らかに都会では浮いた格好だったから。
暫くの間、その子の事を目で追っていたのだが、完全に見失った、ふと昨夜の父さんの話を思い出す、お化け、って事は考えられないが、この崖付近は事故が多い、大丈夫だろうか、あの子。
僕はもう少しだけ男の子を探そうと、斜面を登った。
男の子の姿は至って見えない、ここはもう崖の上の方だった。
僕は足を止めて、もう一度よく辺りを見回して、帰る事にした、もうあの子も帰ったと思った、その時だった。
蝶が飛んでいた、綺麗な青色の小さな蝶々が。
「オ、オオルリシジミ!?」
僕のすぐ目前をひらひらと、木々をよけながら藪に向かって飛んでいた。
やっぱりまだ生息していたのだ、それとも似たような別の蝶々なのだろうか、見た目だけでは判断つかなかったが、でもそうであると信じたいと思った。
すると、その蝶々の行方に、あの男の子がいた、急に現れた訳でなく、いつの間にかいた。
男の子は息を殺し動きを止めて、蝶々を目だけで追って、その蝶が低い所の花に止まった時を見逃さず、両手の中に捉えた。
その子は、満面の笑顔をして、蝶々を傷つけまいと優しく掌で虫かごを作っていた、指の隙間から羽がばたつくのが見て取れた。
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