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「あ、あの」
僕は自然と、その男の子に声をかけていた。
「!?」
男の子は、初めて僕の存在に気がついたみたいで、びくっと体を震わせた。
「ご、ごめん、びっくりさせちゃって、危害を加えたりはしないよ」
やはり警戒しているのか、反応は無かった、これ以上怖がらせてはいけないと、本題を切り出した。
「そ、その蝶なんだけど、逃がしてやってはくれないか」
「えっ????」
「もしかすると、大変貴重な蝶々かもしれないんだ、君にとっても必要な物なら、これ、この標本をやるから」
そう言って僕は、ショルダーバッグの中から、古びた箱を取り出した。
オオルリシジミの標本箱だ、その蓋を開けて少年に見せた。
「いいの?」
信じられない風に応えたが。
「ああ、あげるよ、さあ」
男の子の手に取れる所まで近づき、標本を差し出した。
男の子がそおっと拳を開くと、捕らわれていたオオルリシジミは、いつもと同じようにひらひらと大空に羽ばたいて消えていった。
「うわ、すげえ、綺麗だな、いいんか、おっちゃん」
男の子は嬉しそうに、その標本箱を覗き込みながら言ったので、僕も笑って返した。
「ああ、どうぞ、大事にしてくれよ」
そして慣れた足取りで森を下りていった。
「ありがとう、おっちゃん」
手を振り返す。
「気をつけて帰るんだぞ」
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