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「ねぇ。あっちに見えるのって、野球場かな?」
バルコニーでぼくが指差すと、「どれ」とお父さんが隣に立った。
「ああ、そうみたいだな」
しばらく景色を眺めてから、
「そうだ。気分転換にキャッチボールしよう」
部屋の中にとって返し、まだ積んだままになっている段ボール箱を片っ端から引っ掻き回し始めた。
やがてグローブとボールを手にしたお父さんは満面の笑みをぼくに向ける。
「ほら、行くぞ」
投げてよこした一つのグローブを受け取り、玄関に駆け出した。
キッチンにいたお母さんが不機嫌な表情を浮かべた。
「ちょっと。荷物の整理は?」
「あとで!」
「もう!」と怒りに満ちた声が飛んでくる。
ぼくたちはぺろりと舌を出しあいながら、エレベーターへと急いだ。
部屋はタワーマンションの15階。地上に降りる間、ぼくはかねてから考えていたことを口にする。
「お父さん。実はぼく、リトルリーグに入りたいんだ」
「え?」
目が大きく見開かれた。その表情から反対されるのかと思い、「ダメ?」ときくと、お父さんはぶるぶると首を振った。
「ダメなどころか、大賛成だ」
よかった。今日のキャッチボールはいつもより力が入りそうだ。
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