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思い切りジャンプしたおかげで、ボールはグローブの先っぽにギリギリ引っかかった。後逸せずにすんだことに胸を撫で下ろしつつそれを投げ返す。
構えたグローブにすっぽりと納まった球を、お父さんは「いいぞ」と満足げな顔でこちらに投げる。
腰を落とし、ショートバウンドに合わせて掬い上げたボールを、ぼくは軽くステップを踏んでから投げた。
軽々とそれをキャッチしたお父さんはゆったりと投球ホームに入る。
「しかし、お前が自分から野球をやりたいって言うようになるとはな」
言い終えると同時に指先から球が放たれた。その顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
右に大きく一歩踏み出し、バックハンドで受け止める。
「え?なに?もしかして喜んでるの?」
ぼくが投げ返した球をお父さんは顔の位置で拝むように捕った。
「そりゃそうさ。だってこう見えて、実はお父さんも子供のころに野球をやっていたんだからな」
少し照れくさそうに鼻の頭をグローブでこすってから、ぼくに向かってに投げる。
「え?そうなんだ!」
思い切り背伸びしたことで声が上ずった。なんとかグローブに入った球を握りなおしてから、「知らなかったよ」と投げ返す。
微動だにせずにそれを受け取ったお父さんは、手にしたボールをしみじみと見つめながら話し始めた。
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