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「リトルフォックスって名前のチームだった。お父さんはそこの創設メンバーでもあるんだぞ。当時はメンバーがぎりぎりの9人しかいなくてさ。監督は守備位置を決めるために、9人全員でキャッチボールをさせたんだ」  そこで一旦口を噤むと、球をポーンと空高く投げた。何歩か後ずさってそれを捕まえてから話を再開させる。 「キャッチボールの様子を見た監督は、お前はライト、お前はピッチャーって言う具合に次々と守備位置を決めたんだ。ちなみに、お父さんはどこの守備位置になったかわかるかい?」  それが質問そのものであるかのようにこちらに投げられたボールを、横っ飛びでどうにか捕まえた。 「どこだろ?わかんない」と首を傾げてから投げ返す。  胸の位置に構えたお父さんのグローブから乾いた音が響いた。小さく「ナイスボール」と言ってから、 「監督はお父さんにこう言ったんだ。『お前は受けるのがうまいから、守備位置はファーストだ』ってね。本当はピッチャーをやりたかったんだけどさ。まあそんな思いもあって、次の年に新入生が入ってからピッチャーに転向したんだよ。でも、結局登板機会がないままお父さんは野球をやめちゃったんだ」  悔しそうな笑みをかみ殺して、お父さんは大きく振りかぶった。それは初めて見る全力投球だった。  
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