第1章

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 どうして――まぁ、てめぇで説明すりゃこうだ。うちのご主神が始まりだった。  ちなみにうちってのは、江戸の頃より続く羽田の穴守稲荷神社。ご主神ってのは、うちの御祭神・豊受姫様のことよ。濡れ髪艶やかな美女神様だ。社に行ったことないなら、行ってみな。残念なことに、最近の人間にご主神の姿は見えねぇそうだが、境内の空気に清らかさぐれぇは感じとれるはずだ。  おっと。そういや名乗りもまだだったな。失礼した。俺っちの名前は左文字。相方の右文字と、うちができた頃から神使をしている狐だ。一つよろしく頼む。  で。話を戻そう。ご主神の話だ。  うちは訳あって、本殿から離れたところに一基、鳥居がある。多摩川と海老取川の交わる岸の一角に建つ大鳥居だ。  変わったことに、小さい鈴をいくつもくっつけた鈴緒を下げていて、こいつが風にゆらされただけでよく鳴る。あたりに風をさえぎるものもねぇから、いつも鳴っている、と言ってもいい。  ご主神はどうも小さく澄んだその音がお好きらしい。時折、俺っちや相方を供につけて、大鳥居まで散歩をしては、耳をすましているんだなぁ、これが。  
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