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金も地位も失った姉妹は、それからお決まりの転落人生を歩む。
やがてファジーは、血涙を流しながら憤死したという。
俺とエミルはその後にめぐり合った。
安宿の小汚いベッドの上。
俺だって、かつてのエミルを見知っていなければ、エミルの話なんて、とても信じられなかっただろう。
それぐらい、今のエミルは様変わりしていた。
痩せて、大きな瞳だけをギラギラと光らせている。
「ねえアッシュ。クレメンスを殺して。殺してくれたら、なんだってする。あたしにあげられるものなら、なんだってあげるわ」
とてもお嬢さまだったとは思えない言葉が、エミルの口から飛び出す。
「アッシュ、あなた殺し屋なんでしょう」
その通り、俺は殺し屋だ。
だけど俺の殺し屋としての名前は『グレイ』。
アッシュは、昔の名前だ。
まだ父が、ガドナー家のお抱え運転手として働いていた頃の俺の本名でもある。
もう捨てたはずの名前。
エミルには俺の本名を教えたのに、エミルはまったく、俺のことを思い出さなかった。
エミルは昔のまま、お嬢さまの頃のまま、何も変わっていない。
使用人の息子など、そこいらに転がるゴミと同じ。
だから、俺は、
「お望みとおりクレメンスは始末したさ。だから約束どおり、俺の望むものをくれよ」
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