なくしてしまった大切なもの

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「……アッシュ」 エミルの声は震えている。 さすがに怯えたのか。 俺はちょっとだけ目を細めた。 女の怯える声は、俺にとって最高の快楽だ。 どんな女を抱いても満たされない俺が、殺しの瞬間だけは最高のエクスタシーを味わえる。 それがかつて淡い恋心を抱いた相手なら、快感はどれほどのものになるだろう。 俺の背中がゾクゾクとした喜びに震える。 「さあエミル。少しだけ辛抱してくれよ」 もう耐えられない。 その瞬間、 ――パーン―― 銃声がする。 耳鳴りがするほど近くで鳴った。 次には、胸を締めあげる圧迫感。 『これ、は?』 思う間もなく、俺はゴフッと血を吐いた。 『なぜ、どうして……』 振り返れば、クレメンスの握った銃から白煙があがっている。 クレメンスが撃ったのだ。 俺を? どうして? 「――なぜ……?」 声にならない声を振り絞れば、 「黙れヘンタイ」 クレメンスが吐き捨てるように言う。 そしてエミルが、 「あたしはファジーよ。どうして気がつかないの?」 嘲るように俺に言った。
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