7人が本棚に入れています
本棚に追加
『ファジー? どうして? エミルは?』
俺の頭の中には疑問だけがぐるぐるまわる。
どうと地面に倒れた痛みも、まったく感じなかった。
ただ、口の中にせり上がってくる血の味だけが舌をしびれさせる。
意識を失いかける俺の上で、クレメンスとファジーが会話する。
「ご苦労さま。この殺し屋も、性癖が不快でね。最近では持て余していたところだ。キミの申し出には深く感謝するよファジー嬢」
「ええ、こちらこそクレメンスさん。エミルが集めていたそんな紙切れと、今回の手引きだけで、エミルを殺したことを不問にして、あたしが一生困らないだけのお金をくれるんですもの。あたしにだって良い取り引きになったわ」
「おやおやファジー。とてもガドナー家のご令嬢だったとは思えないセリフを吐くね」
「もうガドナー家なんか無いのよ。そんな肩書きが生きていくのに何の足しになって?」
「キミは金のために姉を殺した。そういうことかい?」
「ええ。あたしは、あたしをこんな世界に巻き込んだエミルのことが大っ嫌いだったの。
エミルを殺せば、あなたにこの書類を売ることが出来る。何をためらうことがあって? ついでにあなたの殺人を目撃したことで、書類とは違うあなたの弱みまで握れたわ」
ファジーはエミルそっくりの美しい顔で、クレメンスが持つ茶色い封筒を指さす。
「ここであたしの口を封じようなんて考えない方がいいわよ。この辺はあたしの縄張り。外にはあたしの仲間がいっぱい控えてますからね」
「やれやれ。頭の回るお嬢さんだ」
クレメンスは諦めたように、小さく息をついて銃をしまう。
「不愉快な殺し屋に代わって、今度はとんだお荷物を背負い込んでしまったわけだ」
クレメンスのイヤミに、ファジーは臆すことなく言う。
「あら、お荷物かどうかは、わかるのはこれからよクレメンスさん。どうか楽しみにしていてね」
ファジーは高らかな声でオホホと笑う。
最初のコメントを投稿しよう!