なくしてしまった大切なもの

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なくしてしまった大切なもの

「ねえアッシュ。あなたって本当にそんな悪いひとなの?」 女が俺の腕の中で、笑みを浮かべながら問うてくる。 「悪いひとじゃない殺し屋なんてものがいるなら、会ってみたいものだね」 俺が腕枕している方とは逆の手で女の前髪をかきあげ、白い額にキスしてやれば、女はうっとりした眼差しで俺を見上げてくる。 「でもアッシュは、ファジーのかたきをとってくれた。あいつを殺してくれたんでしょう」 俺は、 「ああ」 一度うなずいてから、 「あんなやつ、俺の手にかかればチョロイものさ」 軽口を叩いてやれば、ファジーの姉のエミルはクスクスと楽しそうに笑う。 「お陰で気分爽快よ。これでファジーもうかばれる」 かつてこの地で名前を馳せた財閥、ガドナー家の娘、エミルとファジー。 美人だと有名だった仲良し姉妹だ。 だけど当主のガドナーは秘書のクレメンスに騙され、財産のすべてを奪われる。 あっという間に落ちぶれたガドナー家の姉妹は、借金のかたにクレメンスの手により裏社会に売られた。 クレメンスは当時、秘書と同時にエミルの婚約者だったはずだ。 エミルはクレメンスに見事に騙されて、ガドナー家のすべての権利書を渡してしまったと聞いている。 エミルは、『バカな女』なのだ。 金持ちのお嬢さまらしく、疑うことを知らない。 だからクレメンスなんかに騙され、そのために妹のファジーまで一緒に闇社会に堕とされた。
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