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なんと言うことか。
ケイスは駅前のコーヒーショップのカウンター席で肘をついて、一人うなだれていた。
目の前のコーヒーはほとんど一口も手をつけない状態ですっかり冷め切ってしまっている。だが、今の彼には目の前のコーヒーが冷め切っていようとそんなことはどうでも良かった。
もっと致命的な問題が目の前に、いや彼のなかに転がり込んできたからだ。
致命的、絶望的、今までおよそ経験したことの無いような大失態である。それまでの彼はまさに「パーフェクト」だったのに。
くそっ、あの魔女野郎・・・!
彼は毒づいて、漸う注文したコーヒーをグビッと一息に飲み込んだ。しかし、
「くそ不味い!」
彼はいらいらと大きな声で叫んだ。
この閉鎖的な島国で、この国の人間ではない彼が叫んでいるのはひどく目立ったが、彼は心の中に浮かんだ言葉を偽ることができなかった。
いや、何も彼がいらいらしているから偽れなかったのではない。むしろ彼には「偽り」など日常でしかなかったはずなのだ。
―――彼はこの島国に派遣された、優秀なスパイだった。
その彼がここまで落胆しているのも、まあ無理はない。
なんて言ったって、つい先日、彼は魔女に「偽り」を奪われてしまったのだから。
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