0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼が島国にやってきて、もう16年になる。カバーとしての家族もいたし、彼の評判は近所でも悪くなかった。そんな彼の普段のスパイ活動の他に、新たな任務が課せられたのはつい先日のこと。高度な情報戦技術を持つ彼の祖国から送られてきた任務の内容に、彼は最初何かのジョークかと笑ってしまった。
『かの島国にいる、魔女を殺せ。』
科学技術の進んだ近代において、「魔女」という響きはどこか古くささを感じた。彼は何かの符丁だろうと思ったが、どうやら彼の祖国は本当に「魔女」のことを言っているようだった。念のため何回も暗号の解読をやり直したが、結果は変わらなかった。
『その国には魔女がいる。
その国の魔女は、その国に害をなすスパイを次々無効化している。
魔女がいては邪魔だ。
任務の範囲外ではあるが、ケイス、君にこの魔女を消してほしい。
我らが祖国のために。』
これが彼の祖国から送られてきた任務の内容だった。
なんてファンタジックな話だろう。
彼は内心馬鹿にした。偽装ケイスとしてではなく、彼自身として馬鹿にした。自分自身以外何者も信じない彼が魔女を信じるなんてあり得なかった。
その結果がこのざまである。
最初のコメントを投稿しよう!