第1章

4/10
前へ
/10ページ
次へ
「パパ?どうしたの?」  朝早く家を出ようとする彼に声をかけた息子の姿が、鮮明に思い出される。息子はパジャマ姿で、彼に似た色素の薄い髪の毛はあちこち好き勝手に跳ね回っていた。 「俺は、出かけてくる。」 「どこに行くの?」 「魔女のところだ。」 「まじょ?」 「ああ、くそ魔女野郎に俺の「偽り」を返してもらわないと。・・・・・・――あぁくそっ!」  どうしてだ?何の嘘も偽りもできない自分に苛立ちが増す。息子は彼が何を言っているのかいまいち理解できないようだった。 「パパ、行ってらっしゃい。」    息子はいつものように挨拶のキスを求めて手を伸ばした。  彼は息子にキスができなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加