第1章

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 彼はコーヒーショップを出て、海辺へと向かった。初夏に向かうこの季節、海辺への道は彼の気持ちに反して心地よかった。  砂の道を歩いていくと、唐突にグレーの立方体が現れた。コンクリートで覆われた2階建ての家くらいの大きさのあるこれは、先日来たときと変わらず無愛想だが、どこかモダンでシックな印象を与えている。  これが魔女の城だった。  コンクリートの壁の一部が、ぽこっとへこむようにして開く。 「やぁ、やはり来たね。」 そこには、魔女が立っていた。  魔女は、濃紺のジーンズに、真っ白な無地のTシャツを着て、裸足で彼を出迎えた。この国では一般的な黒い髪の毛を後ろで一つに結んでいる彼女は、魔女と言うよりどこにでもいる普通の女性だった。 「まぁ、中に入りなよ。」  絶対ケイスの方が年齢が高いはずなのに、魔女は気さくに声をかけて建物の中へと消えた。続けて中に入ると、一面クリーム色の壁。中は意外にも明るかった。    開けた空間は、リビングだろうか。白いタイルの床にもふもふした白いカーペットが敷いてあって、色とりどり様々な形のイスが、無造作にいくつも置いてあった。  魔女はその中の一つ、クッションの効いた赤い椅子に腰掛けるとにやりと笑った。 「んで、用件は?」
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