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グレーの立方体を出ると空は群青色に変わっていた。
「はい、餞別。」
後ろから見送りに出ていた魔女は、先ほど描いた絵のページを破って彼に渡した。
「君は魔女に呪われた。魔女に呪われた君はスパイとしての活動を何も覚えていない。よって密かに引き継ぎが終わった後、君は一般人に戻るわ。」
殺されなくてよかったね、と魔女は笑った。月の光か、魔女の顔は青白く見えた。
「お前は本当に魔女なのか。」
彼は静かに尋ねた。
「魔女よ。」
「・・・俺はそんな者は信じない。」
「でも魔女よ。」
魔女は残念そうに言う。
「何故俺は、完璧になれなかった。」
「君は完璧なスパイになりたかったの?」
「そうだ。」
「だとしたら、君にははじめから無理だったのよ。」
白い砂の上で魔女はくるくると踊った。
「君は『愛情』を無くしていたもの。君は完璧になれっこないわ。」
砂がぽくぽくと音を立てる。ふと、彼は海を見やった。
「おうちにおかえりなさい、坊や。完璧になれると良いわね。」
魔女の声が背後から聞こえた。
振り向くと、立方体の城ごと、魔女の姿は消えて無くなっていた。
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