第1章

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A子は河川敷道路沿いのベンチに座って空が黒く塗り変わる様子を眺めていた。 傘はない。けれど濡れてもかまわない。 雨雲の狭間から一匹の白い蝶がゆらゆらと降りてきた。それはA子の手のひらに着地すると羽を休めた。ふうっと湿った風が吹き抜けて、白い蝶がさらわれた。目の前の地べたへ舞い落ちたかと思いきや、自転車が通り過ぎて白い蝶は轍の中で死んでいた。 こんなとき、A子は夢を見る。 逆再生をしたかのように自転車はバックをしながらA子の前を通過した。白い蝶がふわりと浮いてA子の手のひらに舞い戻る。そして引っかけたゴムを放ったように時間が進み出したとき、A子は手のひらで白い蝶を囲って守ってやった。一陣の風が吹き抜けて、自転車が走り抜けた。A子が夢から覚めてみると、轍の中には黄色い蝶がいた。手のひらを開けると中には白い蝶が息づいている。手のひらから逃れた白い蝶はゆらゆらと草むらの中へ消えていった。
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