第1章

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雨のない日が続く日も、A子は折りたたみ傘を肌身離さず持ち歩いた。折り目通りに綺麗に折りたたんだこの傘とハンカチをあの彼に返してお礼が言いたい。 その機会は遅からずやってきた。 学校から帰る途中で、前方の横断歩道を信号待ちしている人たちの中に、あの彼をA子は見つけた。 あのねじったような髪型! A子は折りたたみ傘とハンカチを胸に抱き留めて駆けだした。 なんて言ったらいいの。 なんて言ったらいいの。 鼓動が強く高鳴って息が吸えない。息を吐くことさえも忘れてしまった。 信号が青に変わって人並みが歩き出す。 急がなきゃ。 あと少しでA子の手が届く、そのときのことだった。猛スピードのトラックが横断歩道に突っ込んできた。
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