第1章

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公園を通りかかったとき、A子は少年が転んで膝や手のひらに怪我をするのを目撃した。 A子は泣きべそをかく少年に近寄って、 「泣かないで、大丈夫、全部夢にしてあげる」 そう言いながら目を閉じて、ふたたび開けると少年の怪我はすっかりなくなっていた。 少年はさっきまで自分の膝にあった怪我がA子の膝にそっくり移っていることに気がついた。 「お姉ちゃん、血が出てる!」 「わたしなら平気。もうお家にお帰り」 「わぁ、お姉ちゃん、ありがとう!!」 少年の屈託のない笑顔を見たら、A子は心がすーっと軽くなったような気がした。 わたしが身代わりになれば誰も傷つけないんだ。人が幸せになるのって気持ちいいな。 怪我は心地のよい痛みに感じた。何より自分が生きている気がした。
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