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しとしとと降る雨の中――。
見覚えのある女が軒下に立っていた。
つい先ほど。
父の名代で行った――葬儀の喪主。
不幸にも夫に先立たれ、残された女喪主、その人だった。
軒下の女が僕の姿に気がつき、妖艶に微笑んだ。
「貴方は……葬儀でお見かけした……」
「あ、松山の父の名代できた……」
「松山さんの息子さんね?」
着ている和装の喪服とは対照的な紅い唇を横にスッと伸ばし、笑う姿に喉が鳴りそうになった。
「あ、はい。そうです。父にどうしても外せない仕事ができて……」
「お母様は具合が悪いと聞いたけど。大丈夫?」
「はぁ、まぁ……」
彼女に対して、後ろめたいのは。
父も母も、葬儀に行くのを嫌がって、僕を寄越したからだ。
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