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父も母も、目の前にいる美しい女性を嫌っていた。
“年老いた男をたぶらかし、財産目当てで嫁いできた女”
父や母を含め、地元の人間はそう言って嫌っていた。
その年老いた男が亡くなり、葬儀が行われたのが今日の昼だった。
父も母も葬儀に出るのを渋り、たまたま帰省していた僕を父の名代だと言って、葬儀に寄越した。
影口と好奇に満ちたたくさんの視線にさらされながら、喪主の女は毅然と立っていた。
葬儀の時は、よくあるマニュアル通りの会話しかしなかったが、皆が悪く言うほどには見えなくて――
むしろ、凛としたその姿が美しくて――。
「……傘を」
女の言葉でハッとなる。
「傘を忘れてしまって……。火葬場からの帰りなんだけど……」
よく見ると、白い箱を抱えていた。
「私はかまわないんだけど……。この人を濡らすのが、ね……」
そうして妖艶に微笑む。
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