21人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
父の言葉が思い出される。
“風呂で溺れたんだと”
母の言葉が頭をよぎる。
“殺されたんと違う?”
サァーっと――
雨と風が強く横切った。
「……入って行きませんか?」
気がつけば、女に傘を差し出していた。
「……良いの?」
女が小首を傾げる。
「……はい」
女が嬉しそうに笑い、僕の横に立った。
「雨と風が強いわね……。お屋敷まではもたないかもしれない……」
女が近くにある納屋を指さした。
「あそこまででいいわ。雨と風が止むまであの中にいるから」
いるからって……。あれは他人の土地のものじゃ……。
「大丈夫よ」
僕の言いたいことがわかったのか、女が笑った。
「あれはね、うちの持ち物なの。正確に言えば、旦那のもの」
早く行こうといわんばかりに女が僕の手を引いた。
最初のコメントを投稿しよう!