第1章

4/8
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
父の言葉が思い出される。 “風呂で溺れたんだと” 母の言葉が頭をよぎる。 “殺されたんと違う?” サァーっと―― 雨と風が強く横切った。 「……入って行きませんか?」 気がつけば、女に傘を差し出していた。 「……良いの?」 女が小首を傾げる。 「……はい」 女が嬉しそうに笑い、僕の横に立った。 「雨と風が強いわね……。お屋敷まではもたないかもしれない……」 女が近くにある納屋を指さした。 「あそこまででいいわ。雨と風が止むまであの中にいるから」 いるからって……。あれは他人の土地のものじゃ……。 「大丈夫よ」 僕の言いたいことがわかったのか、女が笑った。 「あれはね、うちの持ち物なの。正確に言えば、旦那のもの」 早く行こうといわんばかりに女が僕の手を引いた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!