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2063年8月23日。この日、全人類は100億と桁を増やした。
そしてそれは、《俺たち》以外の人間が、生物としての喜びを奪われる発端となった。
▲△▲
人間たちを見下すようにして配置された高層ビル群、それのせいで空が狭く感じた。
「やっぱりここにいたか問題児め」
「ちっ、照彦か」
なんのためらいもなく開かれた屋上のドア。そこには、いつかの悪友が立っていた。
視線もやらずにパンを齧る。誰もいなかった屋上で街を眺めていたのだが、照彦が隣に来た途端に集中が途切れた。
「なんだ、また俺より頭の悪いやつらめ、とか優越感に浸ってたんだろ?」
「アホ。いつの話を持ち出すんじゃねぇよ」
苛立ちげに靴を踏んづけた。だが照彦は気にもせず、口を動かす。
「今日の現社ではビビったな。ここ150年程度の人口の推移。凛太は信じられるか?」
信じられるか、という馬鹿げた質問に凛太は肩を竦めた。生まれた時から存在した事実に、今更信じるもあるのだろうか。
「それは生殖権が効果を発揮した結果だろ。おかげさまで男女共学という夢の制度が俺らの代まで続かなかったがな」
「夢って……まるで何かを知ってるような口ぶりだな」
「……バーカ。高4の大切な時にんなことできるかよ」
彼女がいるなんて言ったら、下手したら生殖権剥奪だ。せっかくの『150年前に選ばれた血』を無駄にしたら、先祖から祟られても文句は言えない。
もちろん逆もまた然り、凛太は自分の血を無駄にしたら本気で祟ってやるつもりだ。
「高4、こーよんねぇ。そういやぁ今年でハタチか」
「昔ならもう大学だがな。中高四年制、完全男女別とか教育制度が大幅に変わったせいで……」
「まぁ、来年からは共学だし付き合うも結婚も可能!性が乱れるぞぉ?」
下卑た笑みを浮かべた照彦。それに呆れたようなため息で返す。
だが照彦の言う通り、ハタチの妊娠率はどの国を見てもトップだ。
そんな二人を戒めるように強い風が吹く。
「……平和、になったのかな。昔と比べて」
「そう考えることが、血を繋げなくなった先祖たちへの礼儀だろ」
いつかテレビで聞いたフレーズを、そのまま返す。
それに引っ張られるようにして、当時の記憶が意思と反して脳裏に浮かんだ。
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