第1章

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 「今日は休みで横浜から京急に乗ったら偶然同じ車両に春彦さんを見かけたのよ。今日は暇だから付いてきちゃった。」  「全然気が付かなかったよ。せっかくだから観光しようか。」  「うん、嬉しい。まずはマリンパーク行こうよ。」  春彦は、急にお得意様から呼ばれて午後はそちらに行くと会社には報告し、今日は一日休みにした。  油壺マリンパークは二人とも初めてだったが、久しぶりのデートという事もあって、とても楽しく水族館を回れた。  その後二人は、ホテル京急油壺観潮荘によって露天風呂に入ったり、三崎名物のマグロ料理を堪能したり充実した時を過ごした。  二人は充分楽しんで夕方になり、京急油壺駅に戻ってきた。  島式ホームの1番線には黄色の電車、2番線には赤い電車が止まっていた。  「春彦、そろそろ帰らないとね。春彦は三崎口・横浜方面の2番線よ。私は、まだ寄るところがあるから1番線の電車に乗るから今日はここでお別れね。」  春彦は2番線の赤い電車、幸子は1番線の黄色の電車に乗ってお互いドアのところで向い合って話し込んだ。  「なんだ一緒に帰らないのか。最近、仕事が急がしてなかなか会えなかったけど、月に一度は会う時間作ってデートするよ。次は、いつ会おうか。」  「馬鹿ねえ。次に会うのは35年後よ。仕事忙しいでしょ。無理に時間作らなくて良いわよ。」  そう言い終わると同時に1番線の電車のドアが閉まり、三崎口方面とは反対方向に走り出した。  確か、この駅は終着駅だったはずだと、春彦は駅名表示看板を見なおした。  昼に見た駅名表示看板とは違い、左の上り方面は三崎口、逆側の右方面は「天国」の文字が書かれている。  「えっ!どういう事。それに次会うのが35年後だって」と春彦が混乱しているうちに強い風が吹いてホーム横の桜並木の残っていた桜の花びらが一斉に桜吹雪となって、走り出した幸子を乗せた黄色の電車を包み込んだ。  電車を包んだ桜吹雪がサラサラと分かれて散る頃には跡形もなく黄色の電車は消えて無くなっていた。  2番線の電車も間もなくドアが閉まり走り出した。春彦は座席に座り今のは何だったのだろうと思いながら又、睡魔に襲われ気が付くと眠ってしまっていた。  カクンと、電車が止まる振動で春彦は目を覚ました。  駅に電車が着いたところで駅名は春彦の会社のある「横須賀中央」。時間はちょうど昼の12時を時計が指していた。
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