第1章

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 急いで春彦は下りホームに降り立った。  「えっ!下りホーム?確か油壺駅から上り方面の電車に乗ったはず。しかもなんで未だ昼の12時なんだ。」  春彦は、未だ眠たくて半分ぼーっとしながら、京急の路線図を見た。  先程、春彦が乗っていた久里浜線の終着駅は「三崎口駅」で「京急油壺駅」などどこにも無かった。  やっと、頭が冴えてきた春彦はさらに、驚いた。  幸子は2年前の春、4月10日に交通事故で亡くなっている。  一周忌は盛大に行ったが、その後、転勤の話や昇進の件等で三回忌をすっかり忘れていた。一周忌を過ぎた頃から仕事量が激増して春彦は幸子の事を思い出す暇も無いくらいがむしゃらに働いていた。  「先程の出来事は夢か幻か。ごめん、幸子。さびしかったのだね。本当にすまない事をした。僕は65歳で死んで、君の所へ行くのだね。次に会えるのは当分先になるけど、ちゃんと迎えに来ておくれ。それまで寂しいかもしれないけど、今でも愛しているよ。だから健やかに待っていておくれ。」  春彦は、駅のベンチに腰掛けて、そっとハンカチで潤んだ目を拭いた。  35年後、また「京急油壺駅」に行って、幸子に迎えられて今度はさらに二人で下り方面に行く自分を想像した。    
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