第4章 狂い桜のリビングデッド

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 そして、死んだはずの伝助の不確かな目撃情報。そして、伝助の車にあった布団用クリーナー。 「……もしかして、これも同じ? 地蔵の血涙、偽造された七不思議の作成時期と……」  愛里の呟きに颯太、圭太、レイアが反応した。 「神楽坂さん、“同じ”って……」  そのときだった。 「神楽坂さん、いるかい」  公民館の入り口から結城がひょっこりと顔を出した。 「何か分かったんですか」 「いや、君の言った通りだった。その七不思議を記した古書だけれど村人の全お宅を伺った結果、“出所はなかった”」  結城は恐れ入った、というように肩を竦めた。  出所がない。それはつまり、最近になってどこかの家から古書が発見されたというのは嘘だということだ。 「ってことは、やっぱりこの古書は新しく作られたものか?」  圭太の問いかけに愛里は頷く。 「よし。その本は押収しよう。もしかしたら犯人に繋がる証拠が得られるかもしれない」  レイアが結城に本を手渡す。鑑識へと回すのだろう。 「結城さん、もうひとつ。東央大学から連絡が来ていませんでしたか」 「ああ、来てたよ。やっぱり君の差し金か。さっき、署の刑事がファイルを印刷してきてくれた」  そう言って愛里に書類を手渡す結城。 「これは何だい……? 見たところ環境アセスメントの資料のようだけど」 「うちの研究室の助教に頼んで探してもらったものです。今から14年前にこの場所で行われた環境アセスメントのことが記されているはずです。環境省のホームページのものですかね」  そこには過去に実施された環境アセスメントの事例が一覧になって示されていた。  福井県の項を探す。 「ありました」  事例はひとつだけ。  一般公開資料なのか詳しくは書かれていないが、そこには衝撃的な内容が記されていた。 「事業名……ダム建設?!」  圭太が素っ頓狂な声を上げた。  環境アセスメントは大規模な工事を行う際の環境への影響等をあらかじめ予測するために行われる。これは環境影響評価法に基づいており、当然、ダム建設などは環境アセスメント対象の筆頭だ。 「つ、つまり、比久羅間にダムが建設される計画があったってことだよな」 「その通りです。比久羅間は周囲を山に囲まれた盆地。なおかつ、比久羅間川などの豊富な水源があります。ダム建設の立地条件としては最適です」  愛里は眼鏡をくいと指で押し上げる。
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