第4章 狂い桜のリビングデッド

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――――  1日に1本の巡行バスのステップを降り、地面へと足を着ける。東京ではなかなか感じることのない踏み固められた土の感触が足下から伝わってくる。  冷たい空気を肺に溜め込み、辺り一面の田園地帯にぐるりと一望した。見慣れた世界、小さな箱庭が愛里の目に飛び込んでくる。  帰ってきた。愛里の故郷、比久羅間村へ――。 「わあ、のどかなところですね」  愛里に続いてバスから降車した颯太が大きなボストンバッグを肩にかけ直しながら言った。  空は生憎の曇り模様。  冷たい風が畑の苗を揺らしている。今の季節はホウレンソウやコマツナが植えられているのだろう。  見渡す限り、畑、あぜ道、畑、あぜ道、荒れ地、雑木林、そして山。四方八方どこを見ても同じような景色だ。もうすぐ冬だ。ついこの間までキャンパスの紅葉を楽しんでいたのだが、それから1週間近くが経って、葉が落ちかけ、樹皮のむき出しになった木々が乱立する村を見て愛里はこう思う。  色がない――改めて寂しい場所だと感じた。まるで時が凍ってしまっているかのよう。  畑ばかりが目立つが、どうやら使われているのは一部だけのようだった。人口が三百人にも満たないこの村では過疎化の流れが止まらない。挙句、高齢化も進み畑仕事の担い手も少ない。出稼ぎに出る世帯も少なくない。稼ぎに出たまま戻らない家庭も。  限界集落の定義は人口の50%以上が高齢者であることだが、比久羅間村もこの定義から漏れることなく、その不名誉な烙印を押されてしまっている。  こんな村の様子を見られ、急に愛里は恥ずかしくなる。やっぱり圭太の話なんてなかったことにしてしまえばよかった。そんなことを考えていたためか、つい卑屈な台詞が口をついて出てしまった。 「いいんですよ、田舎って言ったって。事実ですから」 「……いえ、そんな……」 「そうですよ、とっても素敵な場所ですよ、比久羅間村。都会の喧騒もないし」  口ごもる颯太をフォローするかのようにレイアが言った。 「きっとご飯とか美味しいんでしょうね」 「……そうですね。質素ですけど、ご飯だけは美味しいです」  舗装されていない道路、バスが去っていったのとは別の方からセダンタイプの汚れた車が車体をガタガタ揺らしながらやって来るのが見えた。 「迎えが来たようです」
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