第4章 狂い桜のリビングデッド

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「10割を超えた分はいつカウントされたんです……?」  確かに研究室に入る前、愛里はよく図書館にこもって勉強していたが、まさかそんな図書館の主(ぬし)扱いを受けていたとは。颯太自身も最近、聞いたばかりなのだが、愛里は同期の中でもかなり特異な人物だったようだ。 「一応言っておきますが、別に勉強が苦にならないわけではないですよ。ただ、必要だと思うからやるだけです。まあ、勉学に果てはないんですけどね」 「神楽坂さんは努力の天才ですもんね。ところで、どうしてそんなにノーベル賞にこだわるんですか」 「どうして……?」 「目指すからには何かきっかけがあったりしたんじゃないですか」  愛里はノーベル賞を取ることを昔からの夢としてきたらしいが、果たしてその夢を抱いたのはいつ頃からだったのだろうか。 「そう思い立ったのは高校生くらいだったと思いますよ。ちょうどリケジョなんて言葉が流行り始めた頃でしょうか。きっかけ、ですか……。ひとつ言えるのは、とにかく自分の故郷が嫌いでしたね」 「それだけですか? 村を出たかったとかそういう?」  確か愛里の出身は北陸地方にある比久羅間(ひくらま)村というところだったはずだ。本人曰く携帯の電波すら届かないような限界集落らしい。 「きちんと努力した者が報われる世界。そういった世界に出たかったんです。まあ、現実はそう甘くなかったですが」  颯太は何だか拍子抜けしてしまった。きっと愛里のことなのだからもっと崇高な理由があって科学界を志したのだと勝手に思っていた。  けれど、それもそうかと納得する。当時の愛里だって普通の女の子だったのだ。やること為すこと全てが凄すぎて隠れてしまうけれど、単に田舎を嫌い、栄光を手にしたいと考えていたとしても不思議はない。不思議はないが……。 「ああ、ただ、昔から科学は好きでした。村は自然豊かでしたから、幼い私の知的好奇心を満たすには適していたと思います」 「なるほど……」  愛里の答えに若干のしこりのようなものを感じながらも、颯太は話題を変える。 「そういえば今週末は農学キャンパスが一斉停電の日ですね。電気設備の整備でしたっけ」 「ああ、確かそんなお知らせメールが来ていましたね。実験ができませんね。停電までに実験をある程度キリのいいところまで進めておかないと」
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