第4章 狂い桜のリビングデッド

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 愛里はすぐさま本題へと移る。 「先生は比久羅間村で環境アセスメントの補佐をしていらっしゃたとか。そのとき行われた環境アセスメントについてどんな些細なことでもいいので教えてくれませんか」  電話口から笹島の声が漏れ出てくる。 『ええ、だいぶ昔のことだからねえ。正直、あんまり覚えていないんだけど。それに環境アセスメントの補佐っていっても末端だったから、詳しいことは何も聞かされていないんだ。ただ、樹木の生態を調査したような』 「それって、もしかして桜じゃないですか」 『……ああ、そうだった! 桜だよ、桜。桜も見たよ。思い出した』 「やっぱり……」 『その桜がどうかした?』 「その桜の調査結果とか覚えてないですか」 『うん、微かに記憶がある。確か、調査の結果、国の天然記念物に指定されたんじゃなかったかな。なんか生えている場所とか咲き方が特殊らしくて学術的に価値が高いとか言われていた気がするよ』  国指定天然記念物。その中でも植物として、比久羅間の桜が登録されていたのだ。 「すいません。こちらではネットが使えません。申し訳ないんですけど、農水省の資料で比久羅間の桜を照会してくれませんか。送り先は福井警察署の結城という刑事で」 『ええ? 警察?! 何でまた? もしかしてまた福豊くんが事件を?』 「俺は関係ないですって!」  電話口で颯太は叫んだ。 「できるだけ早めにお願いします。それではお願いします」  返答も聞かずに、ガチャリと受話器を戻す愛里。 「神楽坂さん……? 何か分かったんですか」 「まだです。まだ、判断材料が不足しています」  そう言って愛里は書庫の方へと戻る。そこではレイアと圭太が話し合っていた。どうやら、古書について議論を交わしているらしい。  その圭太に歩み寄ると、愛里は声をかけた。 「ずっと、気になっていたことがあるんです」 「ん、どうした愛里?」  愛里は古書を包むガラスケースに手で触れる。中では古書が七不思議のページを開いている。相変わらずぼろぼろだ。 「何でこの本だけがガラスケースに入れられているんでしょう」 「そりゃあ、劣化とかを防ぐためじゃねえか。かなり年季も入っているみたいだし」 「でも、他の資料は特にそういった処理がされていませんよね。アルバムとか、けっこう無造作に本棚に入れられています」 「うん……? 何が言いたいんだ?」
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