第4章 狂い桜のリビングデッド

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「えっ」 「嘘?!」  颯太とレイアは圭太の答えに度肝を抜かれる。今、彼は何と言った。  七不思議を作ったのは圭太? 「確かに、その内容を作ったのは俺……“かもしれない”。だが、そんな風に本にまとめたことはない」 「そ、それはそうでしょう! だって、この本はそれこそ何世紀も前のものなんですから。こんなに紙は黄ばんでいてボロボロでシミとかもあって……」  颯太はガラスケースの中の古書を見てそう言った。 「圭太、“かもしれない”の意味を詳しく聞いても?」 「ああ」  圭太は深く頷くと、近くにあった椅子に腰かけた。 「愛里の言った通り、俺はその七不思議の中の幾つかを目撃したことがある。どれも俺がまだ小さいころの出来事だ。だから、記憶も曖昧で。でも、どれも覚えがあるんだ。確かに」 「圭太は記憶力がいいですよね。私もです。私も覚えていたんですよ。“圭太が子供の頃にこんなことを言っていた気がする”と」  昔から愛里と圭太は仲が良かった。 「圭太が不思議な現象を見かけると私に逐一報告してきたのを微かに覚えています」  圭太は、そんなこともあったっけかなあ、と頭を捻っている。 「福豊くん、以前学校で私がいつから農学でノーベル賞を志したか聞きましたよね。科学をいつ好きになったかもお話ししましたよね」 「ええ……」  あのとき愛里はこう答えた。 『ああ、ただ、昔から科学は好きでした。村は自然豊かでしたから、幼い私の知的好奇心を満たすには適していたと思います』 「今にして思えば、そういった不思議を圭太と一緒に見聞きしたのがきっかけだったのかもしれません」  だが、圭太が七不思議の幾つかを既に子供の頃から知っていたからといって、圭太が七不思議を作ったとするには無理がある。 「そもそも、複数の人間が体験することが多かったから七不思議というものが生まれるんですよね。七不思議が先か、圭太さんが先か……そんなもの分かりっこないですよ」  レイアが困ったように言った。 「比久羅間山に伸びる死者の列みたいだって」 「え?」 「福豊くん、先程の環境アセスメントで登山する人達を見てそう言いましたよね」 「……はい。でもそれは……」
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