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「あの写真は2002年に撮られたものでした。私達が小学3年生の時ですね。子供の目には雨の中、鬱蒼と木々が茂る山の中に白いレインコートの集団が登っていくのはかなり不気味に見えたはずです」
「まさか、そのときの内容がその本に記されてるとでも言うんですか。だとしたら、その本は予言書になっちゃいますよ」
颯太のその言葉に愛里は首を横に振った。
「圭太、このガラスケースを開ける鍵、どこにあるか分かりますか」
「ああ。多分、受付デスクのところのキーホルダーだと思うけど」
「ありがとうございます」
愛里はさきほど電話をかけたデスクに歩いていくと、辺りを物色していたが、やがて目当ての鍵を見付けたのか、ガラスケースの前に戻ってきた。
「おいおい、勝手に開けていいのかよ」
「平気ですよ。美術館ではないのですし。それにあんな鍵の保管方法じゃあ、開けてくれと言っているようなもんです」
「違うと思うけど……」
ガチャリ。ガラスケースの脇の鍵穴に鍵が差し込まれ、くるりと回転する。
「開きました」
そう言って愛里はガラスケースを脇にどけると中の黄ばんだ古書を取り出した。それを鼻に近付け、愛里はくんくんと臭いを嗅いだ。
「えっ、ちょ、何してるんですか!」
突然本の臭いを嗅ぎ出すのはまごうことなき奇行だ。それも大切な比久羅間の郷土資料ともなればなおさらだ。
だが、本を奪い取るわけにもいかない。ボロボロで黄ばんでいて、今にも崩れ落ちそうな数ページしかない薄い本。触れるのすら躊躇われる。
「……う~ん、もしやと思ったんですが、まったく臭くないですね」
「はい?」
愛里の行動力は突発的に発揮される。
「何の臭いもしません。紙の臭いだけです」
「そりゃあ紙なんだから当然でしょう……」
「いえいえ、おかしいですよ。この本が書かれたのは明治? 大正? それくらいとのことでしたよね。それで、最近までどこかの家で放置されていたんですよね」
圭太が首肯する。
「なのに、まったくカビ臭くないんです」
カビ?
「そ、それは保存状況が良かったとか……」
颯太は口をつぐんだ。そうではないことはその本を見れば明らかだった。
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