第4章 狂い桜のリビングデッド

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「あの写真は2002年に撮られたものでした。私達が小学3年生の時ですね。子供の目には雨の中、鬱蒼と木々が茂る山の中に白いレインコートの集団が登っていくのはかなり不気味に見えたはずです」 「まさか、そのときの内容がその本に記されてるとでも言うんですか。だとしたら、その本は予言書になっちゃいますよ」  颯太のその言葉に愛里は首を横に振った。 「圭太、このガラスケースを開ける鍵、どこにあるか分かりますか」 「ああ。多分、受付デスクのところのキーホルダーだと思うけど」 「ありがとうございます」  愛里はさきほど電話をかけたデスクに歩いていくと、辺りを物色していたが、やがて目当ての鍵を見付けたのか、ガラスケースの前に戻ってきた。 「おいおい、勝手に開けていいのかよ」 「平気ですよ。美術館ではないのですし。それにあんな鍵の保管方法じゃあ、開けてくれと言っているようなもんです」 「違うと思うけど……」  ガチャリ。ガラスケースの脇の鍵穴に鍵が差し込まれ、くるりと回転する。 「開きました」  そう言って愛里はガラスケースを脇にどけると中の黄ばんだ古書を取り出した。それを鼻に近付け、愛里はくんくんと臭いを嗅いだ。 「えっ、ちょ、何してるんですか!」  突然本の臭いを嗅ぎ出すのはまごうことなき奇行だ。それも大切な比久羅間の郷土資料ともなればなおさらだ。  だが、本を奪い取るわけにもいかない。ボロボロで黄ばんでいて、今にも崩れ落ちそうな数ページしかない薄い本。触れるのすら躊躇われる。 「……う~ん、もしやと思ったんですが、まったく臭くないですね」 「はい?」  愛里の行動力は突発的に発揮される。 「何の臭いもしません。紙の臭いだけです」 「そりゃあ紙なんだから当然でしょう……」 「いえいえ、おかしいですよ。この本が書かれたのは明治? 大正? それくらいとのことでしたよね。それで、最近までどこかの家で放置されていたんですよね」  圭太が首肯する。 「なのに、まったくカビ臭くないんです」  カビ? 「そ、それは保存状況が良かったとか……」  颯太は口をつぐんだ。そうではないことはその本を見れば明らかだった。
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