第4章 狂い桜のリビングデッド

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「本なんて保存状況が悪ければ一発でこうなりますし、カビが生えてカビ臭くなります。古本屋とか行ったことないですか。あの独特なにおいはカビの放つ臭いです。さっきのアルバムだってだいぶカビ臭かったですよ」 「つ、つまり……神楽坂さんは、その本が最近作られたものだって言いたいんですか」  レイアが恐る恐るそう尋ねた。 「ええ、そういうことです」  一同に再び沈黙が下りた。 「えっ、じゃ、じゃあ、この見た目は……」 「紙を劣化させるのは案外簡単なんですよ。もちろんダニやカビ、熱や湿気が原因なことも多々ありますが……」  愛里は眼鏡をくいと押し上げて話し始める。 「紙はパルプ……植物繊維から作られることはご存知ですよね。その主成分はセルロースと呼ばれる糖です。この糖が酸素と反応して酸化してしまうことで紙の褪色(たいしょく)の要因となっています」  愛里は続ける。 「それともうひとつ。紙を劣化させる最も大きな原因がUV――紫外線です」 「紫外線……」 「よく、新聞紙などを日の当たるところに置いておくと黄ばみますよね。それは日光に含まれる紫外線が紙を劣化させているからなんです。特にほとんどは製紙の段階で除かれていますが、高等植物に含まれるリグニンという物質は紫外線に敏感で、紫外線によって容易に褪色を引き起こします」 「ということは、この本は……」 「きちんとした調査をしなければ分かりませんが、この本は古書などではないかもしれません。誰かが七不思議が遥か昔から存在していたと偽装するために作ったものだったのではないでしょうか」  このような事件が実際にあった。新しく作った公的文書に古い日付を印字し、屋上で日に当てる。そうして、書類を古いものであるかのように見せかけて、書類を偽装するという手口が。 「そんなこと、調査しようと思わなければ分かりません。ましてやガラスケースに入れられているものをむやみに調査しようなどとは思わない」  この本はこの書庫で唯一ガラスケースに入れられていたものだった。 「たかが最近見付かった七不思議を記した本に歴史的価値があるかも分からないのにここまで厳重に保管するのはやり過ぎです」  今までほとんど言葉を発しなかった圭太がその思い口を開いた。
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