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「……俺も不思議に思っていたんだ。そこに書かれてる七不思議のうちの幾つかは俺が昔、体験したことのあるものだった。俺の体験がこんな風に古書になっているなんてな。七不思議ってことは色んな人が目撃してる。だから俺の体験と内容が被るのは偶然だと思ってた」
圭太の告白は続く。
農薬残留事件から数年が経っても比久羅間の人口減少は止まらず、限界集落化に歯止めがかからない。そんな村に七不思議などというオカルトが蔓延していたら、さらに村は孤立してしまう。そんな不安もあったようだ。
「けど、愛里がこっちに戻ってくるって万里江さんから聞いてさ。だから、お前なら何か分かるんじゃないかって。愛里と颯太なら、俺のもやもやを取っ払ってくれるんじゃないかって思ったんだ」
「それで福豊くんも連れてくるように私に言ったんですね」
「もちろん、颯太達を歓迎したかったていうのが最大の理由だ! ああ。でも、ごめん。こんな大事になるなんて……。叔父さんも……」
圭太は辛そうに俯いた。
「圭太のせいではありません。だって、この七不思議は圭太が子供の頃に見て感じたことが一部元になっているんでしょう。だとしたら、真に謝るべきは、圭太の体験に加筆修正をして本に認(したた)め、見立て殺人を行った人物でしょう」
川原での愛里の言葉を思い出す。霧隠れの正体を見破ったときの言葉だ。
『それに、もしかしたら、この七不思議を作った人からしたら“すごいんもん”だったのかもしれませんね』
愛里はこのときから七不思議の作成者の目処を立てていたのではないだろうか。だとしたら、ものすごい推理力だ。目の前に起こる現象を解明するだけではない。その裏側に潜む真実すらも明らかにしようとしている。
これで比久羅間山で颯太が感じた矛盾も解消できる。愛里が小学生の頃に起こった食中毒事件。その事件の概要と七不思議の内容が合致した。七不思議がごく最近作られたものなのだとしたら何の問題もない。
愛里の目に映る世界は他の人達とは異なっているのかもしれない。目の前の現象をそのまま受け入れるようなことを愛里は是としない。どのようなことにも存在理由があり、同時にその存在を許したものがいる。
七不思議には根拠があり、存在理由がある。目の前の古書が本当に古いかなんて分からない。彼女に“思い込み”などという概念は存在しない。
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