第4章 狂い桜のリビングデッド

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「そもそもその本が本当に新しいものなのかは専門家に調査を依頼しないと分かりません。結城さんに頼んでみましょう。ただ、時間もありませんし、事件はまだ終わっていません。ひとまずは、古書や七不思議は偽装だったという仮定のもとで話を進めましょう」  現段階で取れる手段としては妥当だろう。  ではいったい古書を偽装したのは誰なのか。 「紫外線、というと伝助さんの車にあった布団用クリーナーが気になりますね」  その布団用クリーナーには殺菌のために紫外線ランプがついているという話だった。 「確かにあれを使えば紙の劣化は可能でしょう。ですが紙の劣化自体は日光浴でもできますし、日焼けサロン等のランプ、私達だったらクリーンベンチのUVランプなんかも使えます」 「誰でも作成可能ってことか。ただ、候補は俺の身の回りの人物に限られるな」  と言っても、比久羅間のような狭い村では、噂の類は一瞬で広まる。圭太の体験した不思議を元に七不思議が作られたのならば、村人全員が怪しいということになり、参考にならない。  4人は考え込む。 「取り敢えず偽装を行った人の件は一旦、置いておきましょう。容疑者を絞り切れません。それよりも溝内さんの足取りが気になります。彼は七不思議を信じてしまっていた。どれもまやかしなのに」 「きっと私達みたいにひとつひとつ体験したんですよね。血の涙を流す地蔵を見て、局地的な霧を見て……」  レイアが今日1日を振り返るようにして言った。  血涙の地蔵は災害の予兆。霧は行方不明に繋がる。どれも不安を掻きたてるワードだ。 「狂い桜を見て、環境アセスメントの写真を見て死者の列と感じたかもしれません」  颯太も声を上げる。比久羅間の取材をしたならば当然、アルバムも見るだろう。 「そのうえ、比久羅間の食事を食べて呪いにかかったと思い込んでいたかもしれないな」  溝内は何回も比久羅間を訪れていたようだった。七不思議を調べ、食べ物の呪いのことを知る前には村の食べ物にも手を付けただろう。 「そして、伝助さんの血塗れの体を見た。まあ、溝内さん自身が刺したと警察は思っているでしょうが」  ぞっとする。愛里のように状況を分析してくれる人物もいないなかこうも立て続けに怪異に遭遇したら……。 「……気が狂うかも」
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