第4章 狂い桜のリビングデッド

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「はい。こんなにいっぺんに七不思議に出会うなんておかしいです。七不思議を偽装した人物が予め仕込んでいたと考えるのが筋でしょうね。事実、桜の木には幾つか手折(たお)られた形跡がありました。わざと桜の葉を落とし、秋に桜が咲くように工作してあったのでしょう」  季節外れの開花――不時現象の原因は、夏の間に葉が落ちてしまい、休眠ホルモンが出なくなるから、と愛里は説明した。誰かがそうなるよう誘導したということだろうか。 「残った七不思議の“桜の木は死者の国の出入り口で死者の声が聞こえることがある。その声に決して耳を傾けてはならない”はどうなんでしょう。溝内さんはこれも体験したんでしょうか」  レイアは愛里の手の中の本を見ながら言った。 「死者の声……死者って誰でしょう。誰の声を聞いたら……」  ハッと気付く。 「牧野三郎。溝内さんの先輩! 確か行方不明の!」 「あっ」  結城によれば、溝内は比久羅間の闇を明らかにするのと、牧野の無念を晴らすために来たのだという。 「まだ牧野さんという方が死んだと決まったわけじゃないですよね」 「ですが、溝内さんがそう思っていても不思議はありません」  だが、死者の声とは?  実際に牧野が生きていて物陰から溝内に声をかけた?  少々、無理がある。牧野がそのような行為を行ったとすれば、七不思議の工作を行ったのも彼ということになる。意味が分からない。 「牧野さんの声を聞かせるなんてそもそも可能なのかな」  レイアが呟く。  愛里は何やら考え込んでいるようだ。 「……先程見た溝内さんの持ち物を思い出してください」  しばらくの沈黙の後、愛里は言った。 「記者の持ち物としてはありふれたものだったと思いますけど」  ノートパソコン、スマホ、デジタルカメラ、ICレコーダー、ペットボトル、メモ帳。颯太は結城に見せてもらった写真を思い返しながら言った。 「そうです。どれも記者としては必携のものです」 「ですよね」 「溝内さんが持っていたのならば当然、先輩である牧野さんも持っていたんじゃないでしょうか」 「そ、そうでしょうね……」  愛里が何を言いたいのか颯太には分からなかった。 「ICレコーダー……」 「えっ」
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