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ICレコーダーとは取材の時の音声をそっくりそのままデータとして残す携帯用録音機だ。記者は対談形式で取材を行う際など、メモを取れないときはICレコーダーを使ってやり取りを記録する。
「録音された音声ってことですか。でも、そんなの話した内容は決まっているし、ばれちゃいますよ」
「最近はある人物の録音された音声をバラバラにし、再編集することで自由にその人の声で好きな文章を喋らせることができるそうです。最近流行っているボーカロイドなどがいい例ではないでしょうか」
ボーカロイドとはヤマハが開発した音声合成技術、及びその応用製品の総称である。メロディーと歌詞を入力することでサンプリングされた特定の人の声を元にした歌声を合成することができるのだ。
「つまり……」
「つまり、牧野さんの行方不明の原因となった人物が牧野さんの声の録音されたICレコーダーを手に入れ、音声加工し、それらしい台詞を桜の前で放送して溝内さんに聞かせる……。既に七不思議をある程度信じていた溝内さんからすれば、死者の声に聞こえてもおかしくはありません」
「そんな……」
比久羅間村の七不思議。
『村の食べ物を余所者が口にすると呪われる』
『血の涙を流す地蔵は災害の予兆である』
『比久羅間南部の霧の中に迷い込むとそのまま行方不明になってしまう』
『桜が比久羅山に咲くとき、死者の列が山へと連なる。列に混ざれば死界に誘われる』
『血塗れのまま動き回る死体を見たらすぐに逃げなければ殺される』
『桜の木は死者の国の出入り口で死者の声が聞こえることがある。その声に決して耳を傾けてはならない』
本当にこれら全てを溝内は体験したのかもしれない。
いや、こう言うこともできるだろう。
彼は誰かに七不思議を体験させられたのだ。
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