第4章 狂い桜のリビングデッド

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――――  状況を整理しよう。  颯太とレイアは、骨折で入院した父親を見舞うついでに帰省した愛里について彼女の故郷、比久羅間村へとやって来た。  歓迎される一同に、愛里の幼馴染み、圭太は奇妙な話を持ちかける。村には通称、比久羅間の七不思議というものがあり、それを記した古書が公民館に保管されているとのことだった。  七不思議を順番に回る4人。だが、その本は何者かが圭太が過去に体験した不思議な出来事に加筆修正を行い、最近になって作成されたものである可能性が示唆された。  比久羅間村――かつてはそれなり人口を誇り、農業も盛んだったが、残留農薬による食中毒事件により、風評被害が広がり、村の農業は大打撃を受ける。このことにより、村の人口は激減、限界集落化が一気に加速することになった。  このことが恐らく第1の七不思議の答えだ。  時を同じくして環境アセスメントが行われ、比久羅間村に生える唯一の桜――通称、高嶺桜が国の天然記念物として認定される。  そのとき山に分け入るレインコートの集団を不吉なものと思った圭太が発端となって第4の七不思議が誕生したと考えられる。  他にも、第2の七不思議、血泣き地蔵や第3の七不思議、霧隠れも自然現象に人間が手を加えたことで生じたものであった。  第5の七不思議――圭太の叔父で村の役人である伝助の血塗れ死体。彼は何者かに胸を刺され、比久羅間山の崖下に落とされた可能性が高い。その死体は、愛里達が救急・警察を呼びに行く間に彼の車と共にいなくなってしまっていた。  だが、村の老人(重度の認知症)の証言で、死んだはずの溝内が綺麗なスーツ姿で歩いている姿が目撃されたとの情報もある。  ここまでは愛里達も体験したと言えよう。  だが、ここで七不思議をさらに体験した者の存在が浮かび上がってくる。  溝内渡。新聞記者で比久羅間の取材に来ていた彼は、第6の七不思議をも体験した可能性がある。  溝内は、彼の先輩である牧野の無念を晴らすべく、伝助に付きまとっていた。偶然か誰かの意思によるものか、ほぼ全ての七不思議に遭遇し、立て続く怪異の連続にすっかり七不思議を信じてしまっていた溝内は、偽装された音声を牧野の声――つまり、死者の声と勘違いしている可能性があった。
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