第4章 狂い桜のリビングデッド

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 笹島が用意してくれた資料をぱらぱらとめくる。中には比久羅間の環境アセスメントの評価書も入っていた。その内容をざっと読んだ限り、愛里の見立ては正しいようだった。  ダム建設の際の環境アセスメントは法律で定められた義務だ。拒むことはできない。  せっかく人口を減らすことに成功したのに、思わぬところで足を引っ張られてしまう。犯人は歯痒かっただろう。 「いったい誰がそんなこと……」  結城が呟く。 「……この村の役人はずっと変わらずひとりだけです」  愛里の言葉に圭太がハッとなる。 「叔父さん……まさか!」  比久羅間村の役人である伝助がダム建設のことを知らないはずがない。  この公民館にはダム建設はおろか、環境アセスメントに関する資料が圧倒的に少ない。恐らく、誰かが意図的に隠したのだろう。そして、それを行ったのは恐らく……。  圭太の反応からして、ダム建設のことは水面下で話が進められていたに違いない。  結城が叫んだ。 「……ダム事業斡旋のための賄賂(わいろ)か何かか!」  結城は愛里の持っていた環境アセスメントの資料を奪い取る。 「ははは、これはかなり根深い事件じゃないか……」  結城の目が輝いている。そして、無線機に向かって話しかける。 「こちら結城。比久羅間の事件で調べてほしいことがある。この村で14年前に起こった食中毒事件の詳細とダム建設についてだ。特にダム建設では行政、建設業者、環境アセスメント、そのやり取りに関わったもの、全て洗い出せ。特に金の動きは念入りな。大至急だ!」  結城は愛里に向き直る。 「……聞きしに勝る推理力だね。ただの七不思議からここまで辿り着くとはね」  結城は不敵に笑う。眼鏡の奥の彼の瞳はギラギラと光り輝いていた。 「要約するとこういうことか。碓氷氏はダム計画を持ちかけられ、多額の賄賂と引き換えに計画がきちんと実行されるよう裏工作をすることを求められた。それが比久羅間産の農作物に毒を潜ませることだった」 「……認めたくはありませんが」 「そうだね。ん……だが、碓氷氏は死んでしまった。そうか、牧野という記者は氏の裏工作のことを嗅ぎつけたんだな。それで、消された。そして、そのことに気付いた溝内が再び氏を尋ね、先輩を奪われた怨恨からグサリ、ってとこかな」  愛里は首を横に振った。
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