第4章 狂い桜のリビングデッド

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「それはどうでしょう。伝助さんが刺された状況やその後のふたりの足取り……不可解な点が多過ぎます」  結城の見立て通りだとするとおかしな点が幾つもある。  溝内は愛里達が比久羅間山に来ると知っていたはずだ。  なのになぜ、そのような場所で犯行に及んだのか。  また、伝助をナイフで刺した後に崖から突き落とす必要はあったのか。死体の隠蔽にしてはお粗末過ぎる。  さらに、なぜ死体を移動させる必要があったのか。  死体がばれたうえ、自分に嫌疑がかかっている状況で死体を抱えて逃げるのはナンセンスだ。  不自然なことが多過ぎる。 「うん、確かにそうだ」  結城はポリポリと頬を掻く。 「溝内にとってデメリットが多過ぎる」  愛里は結城の言葉に頷く。 「それに、この事件の最大の謎がまだ解決していません。溝内さん、ダム、伝助さん。この三者の関連は推理できました。けれども、溝内さんと七不思議、伝助さん。この三者の関連がまだ不明です」  そうだ。全ての始まりは七不思議だ。 「おっしゃる通りだ。誰かが七不思議を偽装して溝内に信じ込ませた。この事件には碓氷氏と溝内以外にも関係者がいる。そして、その人物が恐らく最も得をしている。そいつこそが真犯人……?」 「……見立て殺人」  颯太が呟いた。  見立て殺人は真実から目を背けさせるために犯人が仕組んだトリックだという。この場合、溝内が七不思議を信じ込んでいることを理由に、警察が溝内の犯行だと思うように仕向けたということになるのだろう。  “血塗れのまま動き回る死体を見たらすぐに逃げなければ殺される”。溝内が現在も逃げ続けているのはこのことが原因ではないだろうか。  そして、警察に捕まったとき、溝内は殺人を否定する。自分は七不思議の内容に従っただけだと弁解しても、警察はそんな妄言を取り合うはずもない。間違いなく立件されるだろう。  真犯人はまんまと溝内に罪を被せて伝助を殺した罪から逃げられる。 「ということは、だ。犯人は碓氷氏に日頃から恨みを抱いていた人物となるのかな。う~ん、僕の考えだと、碓氷氏の過去の犯罪を知っている者が怪しいんじゃないかな」  過去の犯罪。間違いなく、農薬混入のことだろう。  それに気付いた者が牧野や溝内以外にもいた。
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