第4章 狂い桜のリビングデッド

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 さらに、圭太の体験が元となって七不思議が作られているとしたら、圭太から七不思議の話を聞けるほど親しかった者が候補に挙がる。 「今、この村にいる人で、過去の事件で最も被害を受けたのは誰かな」  結城は愛里に尋ねる。  愛里は黙り込む。  14年前。広大な畑を持っていた神楽坂家は事件の煽りを受けて大きな被害を受けた。畑で採れた野菜の大半は処分され、農地も縮小せざるを得なかった。借金もした。父も母も犯人を呪っただろう。 「私の家、かもしれませんね」  愛里がぽつりと呟いた。 「ちょ、ちょっと待てよ。お前、まさか……!」  激昂する圭太。恐らく愛里が神楽坂家の人間を疑っていると思ったのだろう。  確かに神楽坂家の人間なら、交流の深かった圭太の不思議体験談を聞いて新たに七不思議を作ることも可能だろう。伝助の犯した罪にも気付いていた可能性はある。 「落ち着いてください。私はまだ何も言っていません。聞かれたことに答えただけです」  だが、愛里の考えは違ったようだ。 「私の考えを聞いてくれますか」  愛里が眼鏡を指で押し上げる。結城は大きく頷いた。 「もちろんだとも」 「七不思議を偽装した人物も、伝助さんを殺して溝内さんを嵌めようとした人物も、伝助さんの死体を移動させた人物も、“崖下で死んでいた人物も”、全て同一人物だった。これが私の考えです」  沈黙が下りる。皆、愛里の言葉を頭の中で整理しているのだ。  七不思議の作成者、伝助の殺害者、溝内にその罪を着せた人物、これらが同一人物なのは納得できる。だが、崖下の死体――すなわち、伝助の死体までもが同一人物とはどういうことか。まるで言葉遊びのようだ。  圭太が声を絞り出すようにして言った。 「お前、何言って……。それって、全部伝助叔父さんが仕組んだことだってことか? でも、伝助叔父さんは……!」  そう、死んでしまっていたはずだ。溝内に血塗れ死体を見せ、七不思議を信じさせるために自ら命を捨てるなど馬鹿げている。  そもそも、死体の運搬はどう行ったのか。死体が自力で動く。生ける屍(リビングデッド)のように。それこそ有り得ない。 「警察に届いた証言にあったじゃないですか。私達が血塗れの伝助さんを発見した後に、村で伝助さんを見かけた人がいるって」 「だがそれは、言い方は悪いが、かなり信憑性に乏しい証言だよ」
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