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『父親なんて不憫なもんさ。まあ、それはそうとさ、颯太って今週末どうなの?』
『どう、とは……?』
『この前のお礼も兼ねて比久羅間に招待したくてさ。もちろん、交通費は出すよ』
『お礼? わざわざ招くほど福豊くんに恩を売った覚えはないですが』
そもそも比久羅間村に招くことが恩返しになるかは甚だ疑問なのだが。
『かーっ、冷たいなあ! お前、颯太がどんだけ陰ながらお前を支えてるか理解してないだろ! 愛里と颯太の武勇伝を村のみんなに話したら、そんなにいい男がいるなら是非連れて来いってみんなが言うからさ!』
『ちょ、ちょっと待ってください! 武勇伝?!』
『愛里も村のみんなに理解されたがってたじゃん。だから俺が東央大学のホームズとワトソンの活躍譚を話してやっただけだよ』
『な……! よ、余計なことを……!』
『みんなマジで聞き入ってたぜ! お前の父さん嬉しかったのか飲み過ぎて酔っ払って階段から落ちてたし』
『…………』
もはや言葉が出ない。絶句とはまさにこのことだった。図らずも骨折の原因が自分にあったことを知った愛里は思わず頭を抱えた。
『まあ、そういうわけだから』
『いや、どういうわけですか』
愛里の話は神楽坂家となぜか碓氷家でも大盛況だったらしく、両家がとにかく颯太を一度連れてこいと大騒ぎだったらしい。正直、意味が分からない。
『とにかく、予定が空いてれば帰省の折に一緒に来いよってことだよ。まあ、決定権は颯太にある。俺にはあいつの答えがだいたい想像つくが』
『どうせ断りますよ。聞くだけ聞けばいいんですね?』
愛里もどうせ断るだろうと思い、颯太にこの話をしたのだが、なぜだが彼は目を輝かせて快諾したのだった。
なぜこの話を承諾したのかという愛里の質問に、
「え、いやそれは……」
と、颯太が目を反らす。愛里と一緒に旅行(?)など、颯太にとっては願ってもない機会だった。だが、そんなことは口が裂けても言えない。
「まあ、その……圭太さんにも会いたいし?」
「あの学祭の3日間にあなた方の間に何が起きたんですか」
「……確固たる友情が芽生えました」
颯太はとりあえずそう言い繕っておくことにした。
そして、今度は愛里はレイアに目を向ける。まだ颯太はきっかけがあるため理解できるが、レイアに関しては旅に同行する理由が全くない。
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