第1章

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 ……無い。  無い。私の相棒が、無い。朝も昼も夜も、登校中も授業中も夕飯時もお風呂でも寝る時でも365日四六時中一緒の相棒が、無い。 「スマ次郎ぉ……どこー(><)」 「……誰だそれ」  一緒に探す弟がゴミ箱をひっくり返してため息をついた。スマ次郎は聞くまでもなく我が相棒のスマホである。健やかなるときも病めるときも、喜びの時も悲しみの時も、富める時も財布がピンチな時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、この命ある限り、真心を尽くすと、……誓っちゃいないけど、とにかくこれに支えられて生きてきたのだ。何も言わずに家出なんて許さん。帰ってこいマイスマホ。ウィルユーマリミーマイスマホ。  0点英語の抜き打ちテストをゴミ箱奥底に戻し、勉強机の引き出しをもう一度全開にして裏までのぞく。本棚の本や教科書を片っ端から出してページをめくってみる。どっかにはさまって救助を待っているはず! 応答せよ! 「そうだ優斗、私のスマぽんに電話してみて!」 「先にそれ思いつけよ……。番号覚えてねーから自分で電話しろ」 「姉の番号登録してないってどゆこと」  ほらよ、と見覚えの無い機種を渡された。いつの間に機種変したんだ。画面に指を滑らせて「発信」をタップ。リビングでけたたましく着信音が鳴り響いた。 「はい小林です」 「あ、優斗」 「何で家に電話してんだよ」 「覚えてた番号にかけてみた」  即切られた。冷たいなあ。  気を取り直して別の番号を入力したら有沙(ベストオブマイフレンズ!)が出た。うむむ、どこに居るのだスマリンリン。通話画面から美穂ーどしたん、と優しい声がする。 「有沙あぁぁぁ……うちのすまぴーがあぁぁぁ……」 「水にどぼん? 画面ぱりぱり?」 「家出した」 「はぁ?」  はぁ、とは何でござりまするな我が友よ。非常事態であるぞ。  食後のドラマ終わって暇になったからケータイいじろうと思ったら居なかったのだ。どこかに隠れているに違いない! 「……学校に忘れてきたんじゃないの」 「かも! ねー今から取りに行くからついてきて」 「嫌だよ。何時だと思ってるの」  日付変更一時間前でございまーす。ふむ。やっぱりダメか。てか、この時間だったら学校閉まってるじゃん……。ああスマ子……。誰もいない薄暗い教室で救助の時をただただ信じて待ってる……! ごめんよスマ子おぉぉ……!
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