第1章

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「なにかお困りごとなら、なんでも相談してね!」  どこか他の教室で騒ぐ声以外には箒が床を擦る音だけが聞こえていた――放課後の教室。静かで穏やかな空間、そう言っていいだろう。目の前にいる一人の女子生徒を除けば。 「悩み事は全部吐き出して楽になろうよ! いじめ? 進路? 恋愛――はワタシちょっと疎いけど……。でも死ぬ気でお手伝いするから全面的に頼ってね! ……あのー! もしもし? ねえってば!」  丸顔で丸い目にショートカット、身長は少し低め。そんな女子が真剣に呼びかけてくる。握り拳に脇を締めた前傾姿勢は行き過ぎなくらいに意気込んで、眼差しは直視されると怯んでしまうくらいもの凄い熱量だ。  自分に話しかけているとすぐには気づけずに、なんだかうるさいと思って瞼を開けたら今のこの状況だった。  箒を手にしているところを見ると掃除をしていたようだ。他に誰もいないのでひとりきりでやっていたのなら、もしかするとイジメられでもしているんだろうか。だとしたら相談が必要なのはむしろ彼女のほうのはずだが。 「あー、ええっと……確か同じクラスの……?」 「篠岡志乃。ワタシのことより緩居くん、よく放課後教室に残ってるよね?」
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