第1章

3/272
前へ
/272ページ
次へ
 言う通り、今もこうして教室にひとりで居残っている。それを見て「掃除を手伝え」と思ったのならとてもよくわかる。  しかし彼女の要求はどうやら違う。 「何度かひとりでいるのを見かけたことがあって、きっと誰にも言えない悩みを抱えて苦しんでいるんだって気になってたんだけど……助けが遅れて今までごめんね! でももう大丈夫! さあ、私に悩みを打ち明けて! きっと力になるから!」  話しながら悲しげに俯いたかと思うとまた強い視線を向けてくる。忙しいやつだ。  どうやら悩んでいるように見えたから心配になったので「相談せよ」と主張しているらしい。この手の人間が世の中にはいると、心当たりがある。 (なるほど、お人好しのお節介か)  状況が理解できれば返答は簡単だ。 「いや、別になにも悩んでない」  ありのまま打ち明けると篠岡は眉を曲げて口をすぼめ、ぎょっとした顔をした。 「だって、放課後教室にひとりで残ってるなんて、なにかあるよね?」  その場合悪事を働く気じゃないかと疑われそうなものだが、どうやら本気で心配しているらしい。眼差しも口調も真剣みしか感じない。
/272ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加