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「どなたでしょうか?」
すると、ドアの外から返事があった。
「隣の葉室です。こんな遅くにすみません。実はお詫びしたくて。いろいろ失礼な態度をとってしまいまして」
と穏やかな態度だった。
「ちょっと、お待ち下さい」
そう答えて健一はドアを開けた。
そこに立っていたのは301号室の葉室だった。
葉室は、
「佐々木さんは、私が同居の女性を殺してベランダの冷凍庫に入れていると疑っているでしょう?その疑いを晴らしたいんですよ。お隣同志これからも仲良くしてゆきたいのに誤解があってはいけませんから」
そう言って微笑んだ。
健一は、
自分の疑惑は邪推に過ぎなかったのだろうか?と思い始めていた。
それほど、葉室の態度は自然で穏やかだった。
葉室が、
「これから、私の部屋に来て、ベランダの冷凍庫を確かめて下さいよ。ペットの餌しか入ってませんから…」
と言って健一を誘った。
「しかし、今日はもう遅いですから」
と健一が断ろうとすると、
「でも、佐々木さんお帰りが遅いから」
と重ねて言ってきた。
「わかりました。では、そうさせて頂きます」
仕方なく健一は葉室の誘いに従うことにした。
それから、健一は葉室について301号室に入った。部屋の中にはこれと言った異常は感じられなかった。
健一は、問題のベランダに行くと、冷凍庫のフタに手をかけた。
その時に葉室が言った。
「佐々木さん、おんもらきをつがいで飼いたいと思いませんか?つがいで飼うと雛を産むのかな?どうです。知りませんか?」
健一には、葉室が何を言っているのかわからなかった。
その言葉には答えずに、健一は冷凍庫のフタを開けた。
霜に覆われていて、最初はわからなかったが、そこにあったのは、バラバラになった女性の身体だった。そして、猫の頭が一つずつラップに包まれていた。
健一は、思わず吐きそうになった。
後ろで葉室の声がした。
「猫の頭は、おんもらきの餌なんですよ。だからペットの餌が入っていると言ったでしょう?」
健一が振り向くと、葉室は、背後にもう一つある冷凍庫を差し示した。いつの間にか、健一のベランダとの仕切りの前にもう一つ冷凍庫が置いてあった。
健一は、恐怖に震えながら、もう一つの冷凍庫のフタを開けた。
中には何も入っていなかった。
その時、背後で葉室が言った。
「そこには佐々木さん、あなたが入るんですよ」
終
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