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「君、確か人のために働きたいって言っていたよね」
「ええ、まあ」
「モノを作る、モノを売る商売に必要なのは、柔軟性と広い視野を持つこと」
「ええ」
「君のように、面接マニュアルを暗記して、それでたとえ入社しても、すぐに行き詰る」
「・・・」
「そして、弊社に必要な能力は、君が寂れていると言った、急行が通過する駅にこ暮らす人々の息遣いを感じる力だ」
「それもそうですけど、御社が目指している・・」
「どこかから借りてきたような言葉を並べるのなら、もう結構です」
「で、でも」
「君が望んでいる将来は、周りに優越感を与えるような安定ですか。それとも周りを驚かせたい世界的な企業ブランドですか」
それは僕にはこう聞こえた。
東京の大都市、品川ですか。
それとも世界の玄関口である羽田ですか。
ちがう。
その瞬間、この沿線で過ごした、小さい頃の思い出や青春時代の苦い思い出が風景となって頭の中を駆け巡る。
小学生の頃、両手の人差し指を口に入れ、左右に口を広げて“金沢文庫”って大きな声で言い合って、大笑いしたっけ。
免許を受け取りに行ったのは、そういえば鮫洲だった。
初めて彼女をデートに誘ったのは、三崎口駅を降りて、迷って迷ってたどり着いたマリンパーク。
初めてのアルバイトが大田市場。平和島駅からバスで行ったっけ。
坂本龍馬に憧れて、立会川で途中下車したっけ。
そして初めての親孝行は・・・
「本日の面接は、これで終了です。後日、結果を郵送します」
この街、この沿線を愛し、いつでも顔を見せられる距離を大切にすること。
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